アカペラ初心者がスキルアップするために意識してほしいのは、練習曲のチョイスです。学ぶべき教材はさまざま。そうしたなか、リファレンス次第で上達のスピードや身に着くセンスが変わるといっても過言ではありません。
それでは、どのポイントで選曲すればいいのでしょうか。
ずばり大事にすべきは“気持ちいいかどうか”です。漠然としたポイントとはいえ、これが意外と覿面(てきめん)に効果が表れるのも確か。そこで本記事では、タイトル然り、アカペラ初心者にこそ選んでほしい練習曲を筆者の“気持ちいい”の感覚に基づき紹介します。もちろん、読者の皆様が同じように“気持ちいい”を味わえるとは限りません。その場合は、速やかに別の曲にシフトしてください(笑)。
一方で楽曲を知っているか否かを問わず、新鮮な快感に出会える可能性もあります。期待を胸に、どうぞ以下ご一読いただけますと幸いです。
目次
“気持ちいい”楽曲でアカペラを練習するのがおすすめの理由
そもそもなぜ、初心者の場合、気持ちいい曲をアカペラの練習で採用した方がいいのでしょうか。
その理由ひいてはメリットについて、いくつか取り上げます。
アカペラを好きになれる
「好きこそ者の上手なれ」ということわざがあるように、初心者の段階でアカペラを心底好きになることが何よりスムーズな上達を後押ししてくれます。初心者の場合は「自分にアカペラができるだろうか」「向いているだろうか」などと何かとネガティブな想いを抱えているケースも少なくありません。が、練習を通じて“気持ちいい”感情に浸ることができれば「アカペラは楽しい」「もっとアカペラを練習したい」とアカペラに対してポジティブな印象が植えつけられていきます。そして、アカペラという歌唱スタイルが秘める表現方法の魅力や可能性に、早い段階から気づくことができるでしょう。
快楽物質が放出され練習効率が上がる
サイエンス寄りの話題になりますが、“気持ちいい”感情が優位になることで、脳内からはドーパミンやセロトニンといったホルモンもしくは神経伝達物質の一種が多く分泌されます。これらの物質は、人間の心身の機能に少なからず影響を及ぼすことが研究にて解明済みです。
ドーパミンは人間のやる気を刺激し、集中力などを高めてくれるホルモンとして知られます。とりわけ、学習能率の向上につながりやすい快楽物質です。
一方、セロトニンは、精神の安定や平常心の維持に好影響を与えるものとされます。リラックスした状態で歌うことは、スキルを磨くうえでも非常に大切なポイントです。実際、喉や横隔膜に関わる筋肉の柔軟性に大きく作用します。
メンバー同士の一体感が強まる
アカペラを練習するたびに“気持ちいい”感情に包まれることができれば、自ずとグループ内の結託も強まるでしょう。大きな喜びあるいは信頼関係の構築はチーム力アップのいわば起爆剤です。そして、まさにアカペラはメンバー同士の一体感が求められます。その結束力をベースに奏でられるハーモニーは、個々のスキル云々の次元を超えて上質なパフォーマンスを生み出してくれるはずです。
アカペラ初心者が“気持ちいい”練習曲に出会うためのポイント
アカペラ初心者はつい練習曲を漠然と選びがちですが、繰り返しお伝えする通り“気持ちいい”を大切にした方がスキルは伸びやすいと考えます。しかし、そうした練習曲に出会うためには、どのようなことを意識すればいいのか分からない方もいらっしゃるでしょう。
といっても、決して難しい話ではありません。むしろ単純明快です。以下、ポイントを挙げます。
メンバー全員が好きな曲にする
まず、メンバー全員が好きな曲にするようにしましょう。実にシンプルです。裏を返せば、メンバーが一人でもその曲に気が向かない場合は、強要、強行してはいけません。
初心者が確実に得るべきものは、アカペラの楽しさです。一人でも“つまらない”という感情を抱くメンバーがいないよう、あくまで“気持ちいい”練習を意識してください。
また、皆が足並みを揃えることも大事です。そうでなければ、日々のパフォーマンスもなかなか軌道には乗らないでしょう。もちろん、意見の衝突は出てくると思います。だからこそ皆が“気持ちいい”をシェアできるようとことん突き詰めていくことが重要です。
メンバーの個性やスキルとの相性を加味する
メンバーの個性やスキルとの相性を考慮することも、意識したいポイントです。たとえば、合唱部出身を中心に構成されるグループならば、コーラスパートの存在感が際立つ楽曲が“気持ちいい”を増幅させるでしょう。
同様に、アカペラ以前はバンド活動に勤しんでいた者同士が集まっているならば、疾走感のある楽曲などセレクトするとハマるかもしれません。周囲の雰囲気、熱がいい感じに温まってきた頃にはボルテージはきっと最高潮。メンバーが培ってきた長所を存分に生かすことができると思います。
アカペラ初心者におすすめの“気持ちいい”楽曲を紹介
さて、いよいよ具体的に“気持ちいい”楽曲を紹介します。
繰り返しお伝えしますが、メンバー全員がこの感情を抱くことが大事です。当然、それはなかなか難しいと思います。
以下、いくつか挙げた名曲、佳曲のなかに、その貴重な普遍性を帯びた“気持ちいい”が含まれていれば幸いです。
「パプリカ」/Foorin
まずは、Foorinの「パプリカ」です。
この曲は、まさしく練習にぴったりの“気持ちいい”を内包しています。それは曲構成と和声の進行が非常に明快であると言い換えてもいいでしょう。
呼吸を整えるように太鼓で取るカウントが最低限かつ最適なイントロとして機能し、そこからヴァース、ブリッジ、コーラスと展開し、繰り返した後で意図的なのかインタールード挟まずに再度Cメロ代わりのブリッジで最後の盛り上がり前の静けさを演出。もちろん弾ける大サビ。自然と揺れ動く感情の高まりと相まって伸び伸びと心地よく歌えるはずです。
と、上記踏まえ、あえておすすめしたいのが男女混合アカペラグループのナギーレーンのアレンジヴァージョン。これが実に秀逸なのです。
スローテンポなオープニングから入り、途中からはややポップなテイストを加えて変化を与えています。そして特筆すべきは、楽曲同様、メンバーの役割分担さえもはっきりしている点です。すっきりと響くリードボーカルの声量、そして女性メインのバックコーラス、低音のベースラインに関しても存在感たっぷり。このように、各メンバーが特定の役割に専念できること(アレンジのしやすさ)は、まさにアカペラ初心者にとってうってつけの要素です。加えて、曲の時間もいい塩梅だと思います。
「世界に一つだけの花」/SMAP
続いておすすめしたいのが、SMAPの「世界に一つだけの花」です。誰もがよく知るJポップのヒット曲だからこそ、まずメンバー間での共有が容易かと思います。また、初心者が挑戦するにあたっても、比較的アレンジの自由度が高い楽曲であるため、各々が“気持ちいい”にアプローチしやすいでしょう。とりわけメインボーカルのラインはキャッチ―。加えて、バックコーラスやベース、ボイスパーカッションのパートも一聴してクリア、ゆえに焦点を絞って取り組むことも可能です。
さらには、ポジティブなリリック。意外と思われるかもしれませんが、グルーヴを乗せるのに歌詞は大切です。前向きなメッセージ湛える作品を練習曲として採用すれば、侮ることなかれ、チームの雰囲気にも不思議と良い影響をもたらします。
素敵な動画見つけました↓
「世界はあなたに笑いかけている」/Little Glee Monster
“リトグリ”の愛称で人気のLittle Glee Monsterの「世界はあなたに笑いかけている」もまたメロディー、歌詞ともにポジティブなナンバー。この陽気さはちょっと尋常じゃないですね(笑)。一時期CMでも起用されていたため、耳馴染みのある方も少なくないでしょう。力強い歌声と透き通ったハーモニーは聴く側はもちろん、実際に歌ってみても快楽物質出まくりーモンスターな一曲です。若い世代を中心に圧倒的な人気を誇るのもうなずけます。
大人数で歌うのも“気持ちいい”でしょうね↓
「ひとり」/ゴスペラーズ
アカペラグループの草分け的存在として知られるゴスペラーズ。アカペラを始めるからには、その代表曲「ひとり」にぜひ挑戦してみたいと考える方も多いのではないでしょうか。その憧れる感情、大いに生かしてください(笑)。初心者には特にモチベーションにつながる要素です。多少背伸びしても、それは得てして“気持ちいい”に転じます。特にこの曲、冒頭の「愛してる~♪」の歌い出しで声を真っすぐ響かせるの、とっても気持ちいいですからね。
一方で難所も多く、ボイスパーカッションのパートがない分、より濃度の高いアカペラスキルが求められるのも確かです。本家は唯一無二のハーモニーを奏でていますが、だからこそ解釈は自由。初心者だからこその化学反応をむしろ楽しんでください。それが“気持ちいい”の、ひいてはアカペラの最たる醍醐味です。
「God Only Knows」/Pentatonix
初心者にはちょっと難しいかもしれない……けれども、これも憧れ一つで何とかなるはず。背伸び、いや跳躍する意気込みでチャレンジしてください(笑)。
アメリカで大人気のアカペラグループPentatonixの「God Only Knows」は、冒頭からムードばっちり、次第にリズミカルになっていく展開も含めてアカペラの楽しさを心ゆくまで味わえる珠玉のナンバーです。寒い季節にはもってこいの名曲。皆で歌えば、“気持ちいい”こともさることながら温まること請け合いです。
男性4名、女性1名のメンバー構成ですが、形態問わず、幾通りものアレンジが見つかるのではないかと考えます。それ程、可能性に満ちた楽曲だといえます。練習を重ねていくなかで、海外産だからこそ生まれるインスピレーションがあれば、技術も培うことができ、加えて各々の個性さえ磨ける期待が持てるでしょう。
“気持ちいい”楽曲はアカペラ初心者をスキルアップへと導く!
再三お伝えしている通り、“気持ちいい”楽曲を練習用に選ぶことはアカペラ初心者の第一歩といってもいいほど大事なことです。結果、アカペラを好きになれるうえに、メンバーの一体感にもつながります。もちろん、スキルアップも期待大。この好循環を構築できれば、中級者、そして気づけば上級者へと成長しているかもしれません。
ひとまず、拙稿で取り上げた楽曲で試してみませんか。